AMH検査
AMHとは、女性の卵巣予備能の指標となるホルモンです。
原子卵胞→一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞→胞状卵胞→成熟卵胞→排卵
という順番で卵胞は発育します。前胞状卵胞からAMHは分泌されます。前胞状卵胞は排卵のはるか前の状態で直径1㎜未満と小さいためエコーなどで観察することはできません。
体内にある卵子の数は生まれつき決まっていて増えることはなく、徐々に減っていきます。卵子の数は人それぞれ異なるので、AMHは現時点で卵巣内の発育する卵子がどれくらいの数があるかを示しています。つまり卵子の在庫の目安となる検査です。これを卵巣予備能といいます。
AMHはまだ歴史の浅いホルモンで15年前くらいから検査ができるようになりました。
卵巣予備能をわかりやすく説明するため当時に「卵巣年齢がわかる検査」という説明がされたので多くの患者さんが誤解してしまいました。
卵巣予備能は卵巣年齢ではありません。AMHは質でなく卵子の数を見る検査です。つまりAMHは妊娠しにくいかを調べる検査ではありません。卵子の質であればむしろ実年齢の方が目安となります。
AMHと年齢をグラフにすると、平均値の線は年齢とともに下がっています。
点はそれぞれの年齢でのAMHのばらつきを示しています。よく見ると同じ年齢でもかなり個人差が大きいことがわかります。平均線を無くして眺めてみるとあまり年齢と関係ないように見えます。
ちょっと専門的な話になりますが、統計学的には年齢とAMH値は相関関係にありません。つまり誤差が激しくて年齢とAMHは統計学的に分析すると関係ないということになります。
そのため、AMHには「正常値」というものがありません。年齢別の平均値を基準値としてそれより高い低いということにも意味がありません。
AMH検査は年齢と絡めて考えるべきではないというのが現在の見解です。つまり年齢と関係なく値が高いか低いかで判断します。
目安としてはAMH値が1.0㎍/mlより低い方は卵子が少な目と考えてよいかと思います。
AMHは自然妊娠できるかどうかには関係ないのですが、体外受精には影響します。人間は毎月1個しか排卵しません。体外受精では多くの卵子を発育させて採卵できた方が妊娠への効率がよくなります。
排卵誘発剤を使うのは1回の採卵で複数の卵子を発育させて採卵するためです。AMH値は採卵の個数に影響します。AMHが低いと卵子が1個くらいしか取れません、そのため何度も採卵を繰り返す必要があります。AMHが高い方は採卵個数が多くなります。数多くの卵子が取れればその分妊娠までの採卵の回数は少なくなります。
1回の採卵で一度にたくさん採れる。
その分採卵の回数が少なくて済む。
卵子が数多く発育するとOHSSという重篤な副作用が起こりやすい。
多くの卵子を採るため1回の採卵の負担は多くなる。
1回の採卵で採れる卵子の数が少ない。
その分採卵の回数が増えてしまい、治療が長引きやすい。
副作用は起こりにくい。
採卵の体の負担が少なく短時間で終了する。
※AMHが低くても自然妊娠の確率は低くない
AMHが低くても体外受精での胚移植あたりの妊娠率は変わらない
AMHは卵子の質には関係しませんので、受精卵さえできれば胚移植あたり妊娠率は低くなりません。
体外受精の際に1回の採卵で回収できる卵子の数が多いので、体外受精での採卵の回数が少なくて済む可能性が高い。
体外受精の移植あたり妊娠率には影響しません。(これはむしろ実年齢が影響します)
タイミング・人工授精など一般不妊治療の妊娠率は変わりませんのでAMHが高いからと言って体外受精が必要ないと安心できるわけではありません。
体外受精での副作用などの身体の負担が起こりやすいので注射や薬の量を微調整する必要があります。
多嚢胞性卵巣症候群などAMH特に高い場合は排卵誘発剤の副作用が起こりやすいので多嚢胞性卵巣症候群を専門としたクリニックの受診をお勧めします。
極端な生理不順でなければタイミング・人工授精など一般不妊治療の妊娠率は変わりません。決して体外受精でないと妊娠しにくいわけではありません。ブライダルチェックで避妊しているのであればAMHが低いだけで不妊をそれほど心配する必要はありません。
ただし体外受精となった場合は1回の採卵個数が少なく、複数回の採卵が必要となりがちなので治療が長期戦になる可能性が高くなります。
不妊の疑いが強い場合は年齢が若いうちに本格的な治療と開始した方が良いでしょう。
不妊治療ではAMHは低い方が治療では苦戦を強いられます。
現在の医療では自分の卵巣の中の卵子の数や質を上げることは出来ません。つまり持っている卵子からできるだけ多くの卵子を取り出して有効活用することが体外受精では大切になってきます。特に35歳以上の方は卵子の質が低下していくので体外受精開始は早めが良いと思います。
AMHは採卵数の目安となります。しかし採卵個数は毎月変わります。AMH値も常に一定ではなく毎月変化します。本来はそれに合わせてオーダーメイドで薬剤や注射の量を変更する必要があるはずです。頻回に値をチェックしていけばコンディションの良い月を逃さず多くの卵子を採卵することが出来ます。そして治療期間を短くすることが出来ます。
AMHは外部委託するのが通常なので結果が数日かかります。当院では院内検査でAMHを測定するので30分ほどでリアルタイムに結果を確認することが可能です。その採卵周期ごとに排卵誘発の方法や排卵誘発剤の種類や量を微調整していきます。
同じ患者さんでも毎月コンディションは異なりますので、その月に合わせた工夫することで、AMHが低くても複数の卵子を採卵できることもあります。月によって薬の量や採卵のタイミングが変えるなどの工夫が必要でワンパターンでない治療行います。
AMH低値の人の体外受精の成功の秘訣は月ごとのオーダーメイドの治療を行うことが大切です。
※保険診療ではAMH検査は6か月に1回しか実施できません。頻回なAMH検査を行う場合にはすべての診療が自費診療となります。しかし保険の範囲内の診療でも方法工夫すれば毎月AMHを測定しなくても良い結果が出せるようになります。
当院の胚移植での妊娠率を比較しました。AMHが年齢平均より高いグループと低いグループに分けました。グラフは4回目までの胚移植での合計の妊娠率となります。AMH低くても高いグループと同等の妊娠率/胚移植となります。AMHは胚移植あたりの妊娠率(=卵子の質)には影響しないということがわかります。
AMH低値グループの方は1回の採卵個数が少なくなります。やはりAMHが低いと採卵の個数は少なくなります。やはり平均的にはAMHが低いと採卵個数は減少します。
妊娠した方の妊娠までの採卵回数の比較となります。
AMHが低い人の採卵個数は少なくなります。そのため理屈的には妊娠するまでの平均採卵回数は多くなります。
しかし、当院の結果を見る限りではその差はさほど多くはありません。AMHが低値でもオーダーメイドの治療ではAMHが高い方に匹敵する結果を出すことができます。
AMHの低い患者さんの治療経験が豊富なクリニックでの治療が低AMHの患者さんの治療の秘訣ではないかと考えます。