多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)|不妊治療の池袋えざきレディースクリニック

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

多嚢胞性卵巣症候群
(PCOS)

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは、女性の20人に1人くらいに見られます。比較的若い20代の女性に多いのが特徴です。卵巣内で男性ホルモンの濃度が上がり、排卵しにくくなる疾患で排卵しなかった卵胞は卵巣に残ってしまい、超音波検査でみると多くの卵胞がみえるためことから多嚢胞性卵巣(PCO)と呼ばれます。排卵しないため、不妊の原因になることもあります。また年齢の割に流産が多いことも特徴です。

通常、排卵には脳下垂体から分泌されるLHとFSHという2つのホルモンが関わっています。PCOSではこのバランスが崩れて、LHばかりが過剰分泌されることによって排卵がうまく行われなくなります。これ以外のホルモンや複数の原因がかかわって卵巣内男性ホルモンが増加し排卵が抑制されます。卵巣内の男性ホルモンは上昇していても血液中の男性ホルモンは上昇しているとは限りません。

PCOSは正常に近い症例から典型的なものまで、その程度はさまざまです。
日本産科婦人科学会では以下の3項目をすべて満たした場合に、PCOSと診断できると定義されています。

  • 月経異常
  • 多嚢胞性卵巣(超音波所見でのPCO所見)
  • 血中男性ホルモン高値またはLH基礎値高値かつFSH基礎値正常

海外では3つのうち2つで多嚢胞卵巣症候群と診断します。

PCOSは病名(原因)でなく症候群です。不妊となった原因の診断名ではありません。わかりやすくいうと症状の集まりにすぎません。
発熱とか頭痛とかは症状であって病気の原因でないように、多嚢胞性卵巣症候群は不妊の人にありがちな症状の組み合わせのひとつです。
多嚢胞性卵巣症候群と診断されたから不妊の原因や治療法が判明したわけではありません。

PCOSは原因診断名ではないので、PCOSとなる多くの原因があります。不妊となる多くの原因があるのと同じです。それは残念ながら未解明です。多くの原因によるので一律の治療があるわけではなく多くの治療の種類があります。

1.排卵誘発

生理不順のため正常な排卵を起こすために排卵誘発剤を使います。

ここで注意しなければならないことは単に排卵すればいいわけではなく多胎妊娠を避けることです。
誘発剤で強い刺激をするとたくさん卵胞が発育して舞います。双胎などの多胎妊娠が起こることは避けなくてはいけません。双胎は6倍、品胎(三つ子)は15倍の新生児の脳性麻痺のリスクがあるといわれています。
PCOSの方は卵巣にたくさんの卵胞が存在するため、排卵誘発剤により多くの卵胞が排卵しようとすると、卵巣が大きくはれ上がりお腹や胸に水がたまることがあります。これを卵巣過剰刺激症候群(OHSS: ovarian hyper stimulation syndrome)といいます。重症化すると血栓症や腎不全などを併発することがあり、入院が必要となることがあります。
PCOSの患者さんはOHSSになりやすいので注意する必要があります。

多胎妊娠やOHSSを避けるため必要最小限の排卵誘発を行う必要があります。
経口薬のクロミフェンの内服で約40%が排卵します。無効の場合にはレトロゾールなどの経口薬や注射薬を用います。 排卵させるだけなら薬や注射を使えば良いのですが、一つだけ排卵させるのはとても難しいのです。薬の量が少ないと排卵しない、多いとたくさん排卵するので多胎妊娠のリスクが上がります。

注射を多く使わないと排卵できない重症の排卵障害の場合は、下記に示す手術療法や体外受精をおすすめします。体外受精であれば、多くの卵子が発育しても、卵巣の腫れが落ち着いてから、受精卵を1個だけ子宮内に移植することで安全に治療することができます。

2.肥満に対する対策

肥満を伴うPCOSには体重を減らすことが効果的です。
脂肪の中には女性ホルモンの元となる物質が含まれるので、これが卵子の発育を邪魔していることがあります。ダイエットすることにより排卵するようになったり、少量の排卵誘発剤で排卵が起こるようになったりします。但し、ダイエットは急激に体重を落としてはいけません逆効果となります。原料は最大月2キロまでにしてゆっくり減量する必要があります。

肥満のPCOSには耐糖能異常という状態の人がいます。わかりやすく言うと糖尿病予備群です。このような患者さんはダイエットだけでなくメトホルミン(インスリン抵抗性改善薬)という糖尿病治療薬を併用して排卵を改善します。
ただ海外のPCOSは肥満や耐糖能異常が多いのですが、日本を含めアジア人は耐糖能異常や肥満の患者さんは20%くらいしかいないので、PCOSだからといってとりあえずメトホルミンを内服するべきではありません。

3.体外受精

排卵誘発剤で妊娠しない場合は体外受精となります。
排卵誘発剤でうまく一つだけ排卵させることが難しい方も多胎妊娠をさけるために体外受精をおすすめします。
1個だけ排卵させることは難しいですが、多くの卵子が発育しても体外受精では一個だけ胚移植すれ多胎妊娠を避けられるからです。

多嚢胞性卵巣症候群の体外受精は卵子がたくさん育ちやすいという傾向があります。
PCOSでは発育卵子が多くなりやすいので採卵の合併症の卵巣出血やOHSS(卵巣過剰刺激症候群)といった合併症が起こりやすくなります。多嚢胞卵巣にはてそうした合併症に対して万全の対策をしながらの治療が大切です。

PCOSの患者さんは少し早めに体外受精をすすめられることも多いと思います。PCOSの場合未熟卵子や質の悪い卵子の割合が多くなりがちですが、通常より多くの卵子がとれることが多く、その中から良い受精卵を選んで移植することで、多くの方が妊娠できます。時間は少しかかりますが、根気よく治療していくことが大事です。

4.腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD)

LODは手術で卵巣に小さな孔をあけることにより卵巣中のホルモン状態を改善させる治療です。
手術のための入院が必要ですが、LODで自然に排卵するようになったり、クロミフェンに対する反応性がよくなったりします。その効果は1年ほどと言われています。この手術により完全に自然排卵することもあります。

PCOSの排卵誘発や体外受精ではPCOSでない人よりOHSSのリスクが高いためこの手術によって、OHSSや多胎妊娠を回避することができるというメリットもあります。
体外受精の前に実施するか、体外受精で結果が悪い場合に実施するかは意見が分かれるところですが、体外受精でOHSSを起こらないようにする対策が出来るようになったので、体外受精を行っても未熟卵子や質の悪い卵子しか採れない場合に手術を行うので良いかと思います。
特定のホルモン検査値の異常がみられる場合に効果が高いですが、肥満を伴うPCOSにはあまり効果がみられません。

多嚢胞性卵巣症候群のまとめ

副作用を起こさないような丁寧な排卵誘発が重要です。
まずは一般不妊治療からですが、場合により早めに体外受精に移行する必要があります。

多嚢胞性卵巣症候群の治療経験が豊富で、副作用予防対策しているクリニックで治療を受けることが重要となります。

排卵誘発が必要ですが、薬の使い方が1番重要です。
多胎妊娠やOHSSを防ぎながら1個だけ排卵させなければなりません。
うまくいかない場合は副作用の対策を十分に行ったうえで体外受精に早めに行うのが良いでしょう。年齢が若い方が多いので最終的には妊娠できることがほとんどです。
まずは一般不妊治療からですが、体外受精もできるクリニックでの治療が良いと思います。
PCOSの治療経験が豊富で、副作用予防しているクリニックで治療を受けることが重要となります。