良い受精卵が育たない方
体外受精で良い受精卵が得られないと治療に難渋することになります。
良好な胚が得られないのはこうした3つの原因が挙げられます。
採卵してもすべての卵子が良い胚盤胞まで育つわけではありません。
育った胚にはグレードが良い胚もあれば悪い胚もあります。
採卵個数が多いと良いグレードの胚が育つ確率が高くなります。
一方、採卵数が少ないと1つも良い胚が育たず、胚移植まで出来ない確率が高くなります。
1回の採卵で良いグレードの胚を得るためには、採卵個数を多くすることが大切になってきます。
排卵誘発剤を使用して複数の卵子を採卵する理由はそこにあります。
卵子の個数が少ない方
AMHが低値の方
G-CSF卵巣内注入法
採卵個数にはかなり個人差があり、卵巣の体質でほぼ決まってしまいます。
採卵数が少ない体質だからと必ずしも諦めなければならないわけではありません。
人間の体は月によってコンディションが変わります。採卵数が少ない人でも複数個の卵子を回収できる月があります。
採卵個数を大幅に増やすことはできませんが、採卵個数1個だった人が3-4個になることはあります。
採卵個数の目安としてFSH、AFC(胞状卵胞数)、AMH、その他の多くの指標があります。
AMHの値に注目しがちですが、AMH低値でも採卵個数が増えることはあります。
複数の指標を組み合わせ、以前の周期の治療法も含めて総合的に判断するとその月のコンディションが見えてきます。
普段より多く取れそうなコンディションの月には、やや強めの刺激の排卵誘発を行い、通常より多くの卵子を回収することを試みます。
大切なことは過去の治療1回1回を詳細に分析することにあります。「あー、今回はだめだった」で終わらせては過去の不成功が無駄になります。
卵胞を穿刺して吸引しても卵子が取れない卵胞を空胞と呼びます。
誰でもある程度の空胞はあります。
しかし、卵胞が多く発育しても空胞が多いと実際の採卵個数は少なくなり回収率が低下します。
空胞には名前の通り卵子が入っていない本当の空胞もありますが、卵胞の内側に卵子が張り付いていて吸引しても回収されていないこともあります。
当院では回収卵子の数が少ない患者さんには「卵胞フラッシュ法」を行います。
卵胞フラッシュ法とは卵胞を吸引した後に卵胞に液体を注入して再度吸引することを繰りかえす方法です。
1回の吸引で回収し損ねた卵子を回収できる可能性があります。
それ以外に回収率が悪い原因に卵子が未成熟である場合があります。
未熟卵は回収が悪いだけでなく、そもそも受精しないので実際に有効な卵子の割合はさらに減少します。
過去の治療経過を辿り、今後の治療に生かすことが大切です。
採卵回収個数が少ない方(血中AMH値が低値の方や空胞が多い方)に対しても池袋えざきレディースクリニックで行っている「卵胞フラッシュ法」を併用し、患者さん特有のくせや特徴をしっかり把握します。
このような対応を徹底することで、普段1個しか回収出来ない方でも1回の採卵で3個の卵子を回収出来たとしたら採卵3回分に相当することになります。その違いはとても大きな患者さんの利益になります。
通常の受精率はだいたい80%くらいとなります。
受精率が低い場合や全く受精しないことを受精障害と言います。
受精しない原因の多くは自力では精子が卵子に侵入できないことが一番多く考えられます。
これ対しては顕微授精により精子を卵子に注入します。
受精障害の多くは顕微授精で改善します。

精子が侵入すると精子により卵子が活性化され受精完了となりますが、この活性化が自力でうまくいかないため顕微授精でも受精が起こらないことがあります。
顕微授精でも受精が起こらない場合は「卵子活性化」という処置を行います。
当院では卵子活性化にカルシウムイオノファという薬剤を培養液に添加します。顕微授精とカルシウムイオノファの併用でほとんどの受精障害は解決出来ています。
受精しても途中で胚発生が停止してしまうと胚移植可能な良いグレードの胚が大幅に減ってしまいます。発育不良の原因は卵子の質が悪いことがほとんどです。
元々の質が悪いのを良くすることは残念ながらできません。
ただし卵巣内の全ての卵子の質が悪いわけではないので、負担はかなり多くなりますが通常は繰り返しの採卵をすることや採卵個数を増やすことで解決していくことになります。

胚発育不良のもう一つの原因は、元々の卵子そのものは悪くないが排卵誘発の方法が合っていないという場合です。
これ関しては排卵誘発方法を見直すことで改善できる場合があります。
これも採卵数の改善と同様に過去の排卵誘発を詳細に振り返ります。
過去に行った検査や全ての採卵の排卵誘発、胚発生を詳細に分析して変更する必要があると判断した場合のみ変更します。
排卵誘発の種類の変更は自然周期法か低刺激か高刺激周法のような大きな誘発法の変更をすべきではなく、細かな調整となります。
薬の日数や、注射の種類、回数の変更や、卵胞の成熟度に合わせての採卵日などを修正します。
胚培養の改善も一つの方法ですが、昔のように培養液を調合することもなくなり、誰でも買える市販の培養液の品質が良くなっているので市販のものをそのまま使用するようになっています。
現在の体外受精は機器の進歩などがあり、20年前のように培養技術の施設間での差は大きくなくなりました。
しかし良好な胚を培養するための努力は怠ってはいけません。劇的な効果は見られなくても少しでも培養環境を改善しなければなりません。
当院を含め多くの体外受精のクリニックでは最新の機器と培養方法を導入して対応しています。
現状できる治療を行っても良好な卵子が得られない場合の治療法として薬剤などを直接卵巣に注入する治療法があります。
白血球を増やす作用のあるG-CSF、患者さんの血液を遠心分離して得られたPRP(多血小板血漿)、PRPをフリーズドライしたPFC-FDなどを卵巣に注入します。
まだ新しい治療であり世界中で普及している治療ではありません。
効果は一部の方に限定されており全ての患者さんに対して有効ではないですが、卵子の状態が悪い難治性不妊症の方に対する治療法として期待されています。
保険適用外なので全て自費診療となります。
卵子改善治療